四通目の手紙

引っ越して一週間ほど経ったころ、前の住人宛ての手紙が届いた。

白い封筒には切手がなく、差出人も書かれていない。宛名は「三枝冬美様」。もちろん、私の名前ではない。

集合ポストへ直接入れられたのだろう。管理人に渡そうと思い、封を切らずに玄関の棚へ置いた。

翌週、二通目が届いた。

今度の差出人欄には、近所のクリーニング店の名前があった。しかし、その店は半年前に閉店している。封筒を光に透かすと、便箋の最後の一行だけが読めた。

今度は、ちゃんと見つけてください。

気味が悪くなり、二通とも管理人室へ持っていった。

管理人は宛名を見ると、少し考えるように目を細めた。

「前に住んでいた方のことは、個人情報なのでお話しできません。ただ、この部屋に三枝さんという方が住んでいた記録はありませんね」

それなら部屋番号を間違えたのだろう。私はそう思うことにした。

三通目は、さらに一週間後の午前二時に届いた。

眠れずに水を飲んでいると、玄関の向こうで、薄い紙が床を滑る音がした。

ドアスコープをのぞいたが、廊下には誰もいない。足音も、エレベーターの動く音もなかった。

ドアの下から差し込まれた封筒には、差出人として私が以前勤めていた会社の名前が印刷されていた。その会社は別の県にある。私は転職を機に、この町へ引っ越してきたのだ。

翌朝、封筒を持って会社へ電話した。総務の人は、そんな手紙は送っていないと言った。

私は三通目を開けた。

中には、古いアパートの間取り図が一枚だけ入っていた。今住んでいる部屋とよく似ているが、寝室の奥にもう一つ、小さな空間が描かれている。

図の端に、鉛筆で文字が書かれていた。

三通目までは、前の人にも届きました。

私は寝室へ行き、図に描かれた位置を確かめた。そこには壁一面のクローゼットがある。

服をすべて出し、奥の板を押してみた。右下だけ、わずかに沈んだ。

板を外す勇気はなかった。

その日のうちに管理会社へ連絡したが、担当者は「その部屋に隠し空間はない」と笑った。建物の図面にも載っていないという。

私は友人の家に泊まり、翌朝、明るくなってから戻った。

四通目が届いていた。

今度は郵便受けではない。寝室の床、クローゼットの前に置かれていた。

宛名には、私の名前が書かれていた。

手が震えた。警察へ連絡しようとスマートフォンを取り出したとき、クローゼットの奥で、紙を折るような小さな音がした。

私は部屋を飛び出し、廊下から警察へ電話した。

警察官と管理会社の担当者が来て、クローゼットの板を外した。

壁の向こうには、人が一人しゃがめるほどの空間があった。

けれども、中には誰もいなかった。

代わりに、白い封筒が何百通も積まれていた。どれも宛名が違い、日付はこの建物が完成するより前のものだった。

一番上の封筒だけは新しかった。

宛名は、私の隣に立つ警察官の名前だった。

警察官がそれを見つめていると、空間のさらに奥、図面にはない暗がりから、薄い紙が床を滑る音がした。

もう一通の封筒が、ゆっくりとこちらへ押し出されてきた。

そこにはこう書かれていた。

今度は、ちゃんと見つけてください。

この作品は創作です。実在する人物・団体・出来事・投稿とは関係ありません。